陣内、右に曲がった

「陣内、右に曲がった!

このまま逃げ切れるか!」

 

そんな声がしたと思ったら

小学生数人が自転車で飛ばして

僕の横をすり抜けていく。

 

彼らは自転車レースをしている。

陣内君は先頭を走り、

実況担当の子が集団の最後尾を走る。

 

「陣内、右に曲がった」

そう呟いてみると思い出が蘇ってきた。

 

小学生一年生の夏休み。

彼らと同じように

町内の自転車レースをしていて

僕はその日実況担当をしていた。

レースから離れないようにと

必死で付いていった。

そして

コーナーを曲がった時に派手に転んだ。

太ももの皮がはがれて

ヒザの肉がえぐられる大怪我だった。

(ヒザの傷はまだ残っている)

 

その年の夏休みは治療に費やされた。

プールにも入れず

毎日包帯の交換との戦いだった。

「地獄」という言葉を知る前に

地獄を体験した。

 

「陣内、右に曲がった」

自分があの日の実況の続きをしてる

気がして

ヒザの傷が痛みだした。

 

 

 

陣内が、右に曲がったせいだ。