小説以下

郷田の花見

「花見に行かれない」 大の花見好きで知られる郷田は 打ちひしがれていた。 例年ならば幹事を請け負い、 場所取り、同僚の出席取り、 予算管理といった業務を 1人で率先して行なっていた。 「今年は花見ができない」 郷田は打ちひしがれている。 郷田の家の2…

月へ行ったはず

「このロケットに乗りたいのですが」 「もちろんいいですよ。定員も割れているので」 「これはどこへ行くのですか?」 「あなたには聞こえませんか?月まで向かう、この発射音が」 それはなんだか胸騒ぎがする危険な音楽だった。 と同時にとても魅力的で、こ…

「ありがとう」

急に目の前の男が その前を歩いているサラリーマンの 後ろポケットから財布をぬすんだ その男はぬすんだ財布をこっそり 隣に歩いている学生の男のカバンに 入れ込んだ それを見た自分は 学生に罪が着せられることを 不快に思い カバンからその財布を抜き取っ…

鏡に映らない

いつからだろう。それは忘れた。 鏡に自分の姿が映らない。 美しい自分の姿が映らない。 鏡はもちろん、車の窓、ガラス張りのドアー。 街を歩いていても自分の姿はどこにも確認できない。 不安になり恋人に聞いた。 「おれはここにいるか?」と。 恋人は答え…